百年史関連
<杵築中学移転に伴う今市騒動> |
郡立中学校として今市町でスタートしたが、経費負担、校地面積の問題があり、県立への移管・校地移転について賛否両論があり、明治33年(1900)3月11日臨時県会最終日に採決があった。 杵築移転の理由 1.校地は、600人規模の平屋造り校舎の県立中学校敷地としては適当でない(拡張するには、墓地多く困難)。 2.杵築は、出雲大社等もあり閑雅高燥で教育に適した所で、適当な敷地もある。 移転反対の理由 1.今市は簸川郡の交通の要衝にあり、生徒たちの通学に便利である。 2.簸川中学創設に一番努力し、苦労したのは今市であり、その地を簡単に移転すべきでない。 この時、簸川郡会は今、市に校舎を維持するようにとの意見書を知事に提出した(町村中、今市支持28、杵築支持10)。 県会では激しい議論のやり取りのあと、本校関係の臨時部予算を削除するかどうかが起立採決によって行われた。削除に賛成する議員は10名で、16名が原案支持、起立せず棄権した者3名で原案どおり可決され、ここに杵築移転が決定した。 この明治3年の臨時県議会は、県会始まって以来の傍聴者を集めている。移転をめぐる激しい賛否の運動が展開されていたことによる。 反対派は3月9日、杵築移転阻止は到底見込みなしと見て、杵築より当所へ入り込む男女100余名の魚商其の他の商売より一切物品を買求めざるべしと触れ、8日には同町村組らは連名にて規約書を回章している。 今市町民は営業上の都合により将来杵築町杵築及び平田町との間に於いて、団体と個人と個人とを論ぜず次の事項を実行する為め記名調印して違背なきを盟約するものとす。 1.営業と営業にあらざる事件を問わず一切の取引をなす可ならざる事。 2.直接の取引にあらずと雖も該地を経、該地人民に関係をなす可ならざる事(M33・3・10) 今市町を中心とした有力者の本校移転反対運動から、町内に運動が拡大されていった。運動が拡大する契機となったのは、町民の生活苦であり、抗議行動が地域的な競合関係にあった杵築に設定されたからであろう(明治20年代まで、すべての面で今市、杵築の両町は拮抗していた)。 臨時県会終了後も、今市町を中心に運動は激しさを加えていった。移転問題委員の帰郷を出西村まで数百人が出迎えている。また、今市に帰ってくる運動者を迎えるにあたり、1戸1名の歓迎を触れ、違反者に対しては「町内省きを励行すべし」と触れ流してもいる。つまり、出迎えない家は、「村八分にしろ」という激しさである。 県知事に向けられていた矛先は、県会終了後は杵築の千家邸に集中する。 当時の新聞報道によると 3月18日 今市神社(山王)に集合協議。 3月19日 高松朝山神社に(高松村)集合。1000余名腰に弁当、手に大社教の木札(出雲大社へ返上の名目で)。今市警察解散を命ず。 同日、一畑薬師参詣と称して、木佐徳三郎邸襲撃の警報あり。(木佐が賛成派のため、平田に対する不買運動も続けられていた)。 3月23日 杵築への押出しの計画があったが、区長と組長、警察の説得に応じ中止。 3月24日 竹原県議らによる政談演説会(この頃から有力者よりも、今市の職人などが運動の中心となる)。 押出しの風説あり。風説では、千家邸から、大村貞蔵宅(杵築側の校舎誘致委員長)へ押し出すと。 3月28日 今市警察署、今市町民が千家邸へ押し寄せるを察知し、区長、十人頭を署に召集説論。 明治33年3月29日、ついに騒動が起こった。午前8時頃、数百名が腰弁当に毛布を肩にかけ(朝曇天降雪あり)杵築町に向け出発(本校の移転は出雲大社千家家等による主唱運動の結果であるとし、出雲大社の氏子札返上との名目で)。 警戒の警察官、山居橋で阻止を図るも出来ず。朝山八幡神社前にて松本今市警察署長制止するも出来ず。修理免小学校付近を抜け神光寺橋での警官の阻止も突破す。杵築町民は、命により門戸を閉鎖して通過するを待つ。 正午過ぎ、千家邸外に到着。同邸の扉、塀を壊し、警察官の制止をきかず侵入。大社教本院教務局に瓦礫を投じガラス障子等を破損。大社教本院附属祖霊社門扉、塀を壊し事務室で狼藉。この間、警察、組長らも行き過ぎのないよう説得す。 午後1時10分頃、説得に応じ一同杵築を引き上げる。この時の様子を「而して千家邸引揚の際の如き人員点呼をなし弱者を先きとし強者は殿となし隊伍正しく引揚げしが途中までは輜重(しちょう)も来りし」。 午後5時頃、今市町へ帰着。この日の夜、杵築町民は町内30箇所で、焚き火で徹夜の警戒にあたる。 30日朝、杵築町民は、検事正片野保安課長の諭示で解散。 4月1日以後あわせて26名の逮捕者が出た。逮捕された者は、黒崎方面へ集まった「上流者」ではなく、山王で集会した「下流人」であった。瓦礫を投げた者2名と標札棄損罪1名は今市裁判所に移され、1名は免訟となり、残り22名が松江地方裁判所で裁かれた。 |
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