質 問 書 拝啓 去る7月25日貴殿が大会長として最高責任を有せらるる高校野球準決勝戦に於ける大田高校木下監督の規則違反及びドロンゲームに持ち込む為の不正行為、並びにこれに対する審判団の優柔不断の処置により、純真なる高校野球に甚だしき汚点を残し、醜さを全国にさらして島根県に多大なる不名誉を与え、更に大社高校はこの処置により思いもよらぬ試合放棄の汚名をきせられ、選手は一年間の練習を無にせられ悲嘆にくれ、大社町民及び後援会は衷心憤慨して居ります。 貴殿は大会長として最高の責任を有せられるのであります故にここにご照会いたします件に付至急御返事頂きたく切手同封御願いいたします。 一、25日大田の木下監督が規則を犯し、且つ不正なる抗議を長時間続けて試合進行をさまたげている時、貴殿は大会運営の責任者としてなぜ速やかなる試合の進行を図られませんでしたか。日没近きあの折、審判団が大田木下監督に引きずれたのは素より木下監督の不正行為でありますが、しかしあの際、審判団をして試合を進行せしめるよう指示するのは大会長たる貴殿の責任であります。 二、26日には4時30分までに大社側が入場せぬ時は放棄試合とみとめるという公表は、それ自体が一方的なものでありますが、しかし、大社方中山敏三に対し貴殿は「とにかく4時半までに入場せしめてくれ、善後策はその上でするから。」と申されたので貴殿を信じて大社方は4時半迄に入場せしめました。そして他方に於いては大社方の千家後援会長がその善後策の一つとして貴殿及び佐藤副会長の面前に於いて 1、大社方は審判団に関する件は撤回する。 2、しかし問題は木下監督の規則違反及び不正行為より発生している以上、彼は出場させないのが高校野球としてとるべき道と思うが故にその事を実現する為に大田市長にその斡旋方をたのみたいがどうか。 3、その上で正々堂々と試合をさせたい。 4、右でよろしいか。 とたずねた処貴殿もよろしくたのむと云う意味を申しのべられました。 そこで千家会長は貴殿の面前で恒松安夫前知事に電話し、恒松邸で大田市長と面会する事になりました。この交渉のせられている時、多田は終始同席して千家後援会長と貴殿方との談話を聞いていました。そしてその時はすでに4時40分頃の事であります。故にこの点から考えて見ても4時30分は試合開始の時間でなく入場の時間として指示され(一方的ながら)たものである事を証明しています。 そして多田は千家後援会長に同伴して恒松邸に参り、千家後援会長より縷々と田原市長に事情を申しのべ「右のようにして正々堂々と試合をさせたい。」と申し入れ、田原市長は直ちに了解同意しその工作にのり出ましたが、恒松邸よりの帰途、同市長は多田に対し、車中で「自分が球場にゆき今日の試合を延期する事を自身マイクで話して市民の了解をうる事にする。」と申されたのであります。しかるに一方球場に於いては、審判団は勝手にプレーを宣言しました。この折中山敏三より貴殿に対し「話が違います。」と申入れた処貴殿は立ち上がって「マッタマッタ」と再三再四申され(この事は安来の部長も承知の筈)更に審判が大社方の試合放棄なりと宣言したあと貴殿は大社方の選手席に来て「今の試合は大田の勝ちと認めない」と申され、それを聞いた大社方の中山敏三及び糸賀、飯塚の両教諭と選手等は皆知っています。 即ち貴殿は運営の責任者たる大会長として A、25日には審判が大田方、木下監督の無理な抗議に引きずられているのに、之に対し速やかなる進行を命ぜずして遂にドロンゲームとなさしめ。 B、26日は4時半に入場すれば善後策をとるから、とにかく入れてくれと中山敏三に申され。 C、千家会長には4時30分をすぎてから善後策を委嘱しながら審判団が試合開始を命ずるのをなぜさしとめられなかったか。 即ちこのBは中山敏三を欺き、Cは千家後援会長をあざむきその為に千家後援会長は貴殿の委嘱の言を信用した為、大田市長をも欺いた結果になりますが、このB、Cともに大社方を欺かれたのであります。然して大田方は自発的か受動的かは存じませんが部長及び監督は辞職しているのに貴殿は何の反省もなくして、去る8月2日の理事会には大社方の理事より事情を報告せんとするのをさしとめる態度をとられた由、之は本当でせうか。即ちA、B、Cともに貴殿は大社方に対し無責任な事をして放棄試合と云う思いもよらぬ汚名をきせられました。そして純真なる選手が悲嘆にくれ、後援者町民が憤慨するのは、木下監督の不正行為と大会長たる貴殿の斯くのごとき行為に対してであります。 之につき貴殿の大会長として、特に教育者としての率直なる御返事至急に頂きたく申し入れます。大社方としては単に貴殿が大会長を辞任せらることをもって、この度受けたる傷が癒されるわけではない事を明確に申し添えておきます。 昭和34年8月5日 大社高校野球部後援会 島根県高等学校野球連盟会長 木 島 俊 太 郎 殿 |
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